利根書房 少国民版
利根書房 少国民版
中公文庫版
中公文庫版
解説

「海軍」は、小説家の獅子文六が名(田豊雄)した小説で、南高校の直近の前身、旧制二中業後海軍軍人となり真珠湾攻撃で散した実在人物が主人公です。岩田は主人の故郷鹿にわたって取材しまた。本当時の世や風俗、現存施(二校舎、当時県立図書館で博物館等が随所に述べられているほ、登場人物名は実在人物捩っていす。以下は戦市内にあった二校の県立中学について、友人関係と絡て述べられた部分です。なお、本作を原作とした映画が、昭和18(1943)(松竹)と戦後の昭和38(1963)年(東映)の二度、作されてます【リンク先は関連事項。「三本線について」のページ下半分参照】。

松竹映画「海軍」
松竹映画「海軍」
東映映画「海軍」
東映映画「海軍」

松竹映画「海軍」ポスター
松竹映画「海軍」ポスター
松竹版配役 登場人物 東映版配役
山内 明 谷真人 北大路 欣也
志村 久 牟田口隆夫 千葉 真一
青山 和子 牟田口エダ 三田 佳子
滝花 久子 真人の母 杉村 春子
小澤 榮太郎 隆夫の父 加藤 嘉
東野 英治郎 緒方先生 三宅 一
  市来画伯 東野  英治郎
笠   智衆 軍事教練 長島  明

横山正治海軍少佐
横山正治海軍少佐
山内明(谷真人役、1943年)
山内明(谷真人役、1943年)
北大路欣也(谷真人役、1963年)
北大路欣也(谷真人役、1963年)

海軍(中公文庫、2001年)

「やっぱィ、二中へ入ってよかったどなァ」

 新しい小倉服に、鹿の角の徽章がキラキラ輝く、しい大黒帽を冠(かぶ)って、牟田口隆夫は、真に、話しかけた。

「きまっちょらい」

 同じ服装の真人は、いつものように、ニッコリ微笑だ。

 二人は、県立第二中学校に首尾よく入学したので、照国神社から荒田八幡に、礼拝した帰りである。いっても、二人が少年に似気(にげ)なく、心身気かったわけではない。事ある毎(ごと)に、藩主の産土神(うぶすな)と、そこから先祖の墓に詣(まい)るのが、土地の風なのである。

(中略)

少国民版 海軍(利根書房、1943年)

「やつぱり、二中へ入つてよかつたなァ」

 新しい小倉服に、鹿の角の徽章が、キラキラと輝てゐる新しい大黒帽を冠(かぶ)つて、牟田口隆夫が、真人に、さう話しかけた。

「きまつとる」

 同じ服装の真人が、いつものやうに、ニツコリと微笑んだ。

 二人は、縣立第二中學校に首尾よく入學したので、照国神社から荒田八幡宮に、お禮のお詣りしてきたのである。

(中略)


「おいは、いけんしても、海軍に入(い)ッど」

 隆夫は、昂然として、未来を語った。まだ、中学に学したばかりだが、兵学校受験の夢が、眼前にチラつくのである。


 彼は、小学校五年頃から、急に、海軍熱に憑かた。その理由で、彼は中学も、県立一中を選びたかったのである。一中は秀才の集まる学校で、高校や海兵や士の入学率が高いので、評判だった。制の白風呂敷包みを抱えた、一中生の姿は、少羨望の的だった。そこへいく と、二中は、腕白収容所のようにいわれた。最近、東京の学習院の教授をしていた河田校長が、新任してから、評判更(あらた)まったというものの、まだ、一中には及ばなかった。隆が、宿望の一中を捨てて、二中を受けたのは、親友人と離れたくなかったからである。それほど、二は仲がよかった。

 


 真人の方は、一中でも二中でもよかった。ただ、兄真二郎が勧めるから、二中にしただけである。彼は、中学に入れて貰えるだけでも、有難かった。

(後略)

「おれは、どんなことがあつても、海軍に入るぞ」と、隆夫が、眼を輝かして、將來のことを語つた。學校はいつたばかりなのに、海軍兵學校の受驗のとが、眼の前にチラつくのである。

 隆夫は、小學校の五年生頃から、急に、海軍が好きになつた。それで、彼は、中學も、縣立一中を選びたかつた。一中は、秀才の集る學校で、高等學校や、海軍兵學校や、陸軍士官學校の入學率が高ので、有名であつた。白風呂敷包みを抱へた、一生の姿は、少年たちの、あこがれの的であつた。それに較べると、 二中は、腕白者の寄りあつまりのやうはれてゐた。最近、東京の學習院の教授をし河田校長が、新任してから、評判がよくなつた、といつても、まだまだ、一中には及ばなかつた。隆夫が、一中の希望を捨てて、二中の試驗を受けたの友の真人と離れたくなかつたからである。それほど、この二人は、がよかつた。

 真人の方は、一中でも二中でもよかつた。ただ、真二郎が勸めるから、二中にしただけである。彼は、中學へ入れて貰へるだけでも、有難かつた。

(後略)


■著作者

岩田豊雄(獅子文六)

■発表年

昭和17(1942)年

(朝日新聞連載)

■出版社

中央公論新社(中公文庫)

■出版年

平成13(2001)年8月25日

■著作者

岩田豊雄(獅子文六)

■発表年

昭和17(1942)年

(朝日新聞連載)

■出版社

利根書房

■出版年

昭和18(1943)年


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